最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)754号 判決 1948年12月14日
主文
本件上告を棄却する。
理由
辯護人大島正恒の上告趣意は、末尾に添附した別紙書面記載の通りである。
第一點について。
しかし、現行犯とは現に罪を行い、又は現に罪を行い終った際発覺したものをいうのであり、そして、現に罪を行いというのは、犯罪行爲実行中のことであり、現に罪を行い終った際とは、犯行行爲の実行々爲の終った瞬間はもとより、その後多少の時間のへだたりがあっても、犯罪行爲の行はれた痕跡がまだ明瞭な状態にある場合を指すのであって、必ずしも犯人が其場所に在ることを要しないものである。原審の認定した事実によれば、原審相被告人藤卷貫は同勝見孝と共に昭和二二年六月二六日午後八時頃新潟市の東寳劇場において開催中の諏訪根自子のヴァイオリン演奏會を妨害したので、同人等逮捕の爲出張した新潟警察署勤務刑事係巡査石川竹井、同倉又喜代三の爲に同日午後八時三〇分頃右劇場前において逮捕されたというのであるが、判文上明らかなる通り右妨害行爲の時より逮捕の時までの間は僅か三〇分であり、且つ逮捕の場所は妨害行爲の行はれた劇場前である等の點に鑑み、原審において右両巡査が現行犯人逮捕の手續により右藤卷を逮捕したことは適法なる職務執行であると判定したものであって、其判定は違法とはいえない。從って両巡査の右逮捕に際し両巡査を脅迫して、右藤卷の逮捕を妨害した被告人に對し、公務執行妨害罪として處斷したことは當然であるから、論旨は理由がない。
第二點について。
しかし共同正犯たるには、行爲者双方の間に意思の聨絡のあることは必要であるが、行爲者間において事前に打合せ等のあることは必ずしも必要ではなく、共同行爲の認識があり、互に一方の行爲を利用し全員協力して犯罪事実を実現せしむれば足るのである。原審の採用した證據によれば、被告人等の間に判示の犯行について共同行爲の意思聨絡のもとに、互に他の一方の行爲を利用し、協力して両巡査の職務執行を妨害したものであることを認め得るのであるから、原審が擧示の證據により被告人等は共謀して本犯行をなしたと認めたことは虚無の證據によったものとは言い得ない。論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)
よって刑事訴訟法第四四六條により主文の通り判決する。
以上は裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)